同日
22時30分
東京都豊島区南大塚
Hotel G-Style
我妻も其扇も余裕を失い、ほとんど口をきかないまま繁華な駅へ足早に向かった。ふたりとも、大塚駅周辺に「その手」のホテルが多いという知識だけはあったのだ。細い道へ、裏のほうへと歩いた先に紫色にライトアップされた建物を見つけ、躊躇いもなく飛び込んだ。
部屋もろくに選ばない。一番手近な空室パネルにタッチし、キーを掴んで奥へ。どこでもいいのだ。いま抱き合えるのならどんな部屋でもかまわない。
もつれ合うようにして入ったのは405号室か505号室、どちらだったろうか。真っ赤なシャンデリアと壁が毒々しい部屋だったが、内装をまともに見たのは数時間後、飽きるほど交わって虚脱しきってからである。
「タイガ、脱いで」
脱がせ合う時間も惜しい。お互い一糸纏わぬ姿でベッドへ倒れ込む。
どんなふうにすれば其扇が高まるか知っている我妻は、慣れた手順で愛撫を施そうとして、「いいから」と押し留められた。
「言ったろ? 今日は俺がしてやりたいんだ」
「え……ですが……」
「いつも俺が先にいかされちゃうけどさ……今日はおまえが先に、な……?」
そう呟いて其扇は、我妻の脚を開き、その間にゆっくりと顔を伏せた。我妻の性器はすでに張り詰めて固く、先端に露をたたえている。滲んだ体液を舐め取るように舌先が触れたと思ったら、すぐに全体があたたかく濡れた感触に包まれた。
「……ふ――……」
「う……! あ、ぁ……っ」
突然の強い快感に、耐えきれず呻いた。其扇は、口中深くに我妻のものを咥え込んだまま、舌先と口蓋を使って煽ってくる。尖らせた舌で雁のあたりをくすぐり、ときに強く吸い、甘く咬んで、我妻を感じさせる。
「ん、ン……んぅ、ん――……」
「っく、ぁ――……あ、いぃ……晟尋さん、いい――……」
とろとろと溢れる先走りを堰き止めるように、鈴口へ舌先が差し入れられる。そのまま細かく動かされると、我妻の身体がいきなり熱を帯び始めた。意識しなくても、腰が動いてしまう。もっと深く強くと求めてしまう。いずれこのままでは、夢中になって其扇の喉奥を突いてしまいそうだ。
荒れ狂う体感に呑み込まれまいと、我妻は閉じていた眼を開ける。と、そこには自らの性器と後孔を慰撫する其扇の痴態があった。
「っあ……! ふ、ふふ……なんだよ、急におっきくして……」
「すみ、ません……晟尋さんが、すごく……」
「うん。俺、やらしいよな……タイガのしゃぶって、前も後ろも自分でして……う、ぁあ……――あ……」
口に咥えたまま其扇が話す、その刺激だけでたまらなくなる。さらに見せつけるように自慰を激しくするので、我妻の全身は昂っていくばかりだ。
「う、う……ぅあ……っ」
獣じみた呻きをあげる我妻を、其扇が上目遣いで見詰めてきた。恥じらうことなく視線を絡めたまま、フェラチオはますます技巧的になっていく。雁を舐め、先端を吸い、裏筋を甘く咬み、ぬぷぬぷと出し入れする。
「な……タイガ……?」
「っ、はい……」
「枕元のトレイにローション、あるだろ……それ、俺の尻に、垂らして……」
言われるがまま分包になっているパッケージを咬み切って、薄いピンク色の粘液を其扇の尻へ垂らす。一包だけでなくふたつ、みっつ。細い腰から丸みを帯びた尻にかけて、ぬらぬらとしたピンク色の液体で濡れ光るさまは、息を呑むほどいかがわしい。ローションは尻のあわいを伝って会陰に至り、ひくつく後孔と性器を潤したのだろう。其扇が前後を弄る手の動きにつれて響く音がいっそう派手に、生々しくなる。其扇の口がたてる音と重なり、我妻は、聴覚から理性が侵されていくような気がした。
「ああ、あ……あ、もぅ……」
もう駄目だ。これ以上もたない。陰嚢がぞわぞわと蠢き、ペニスが強く脈打っている。射精してしまう。其扇の口へ放ってしまう。
「晟尋さん、いく……いくから、もう、口、外してください……!」
「んん……」
其扇はフェラチオをやめなかった。わずかに首を振り、我妻の懇願を退ける。
潤んだ眼がすっと細められた次の瞬間、強く吸いながら喉奥までのみ込まれた。ほとんどディープスロートに近い技巧に、我妻の自制はついに崩れた。
「あ……! あ――あぁ……晟尋、さん……っ!」
「――ん、ぐ――……っ」
こらえぬいた果て、其扇の口を汚すという後ろめたさを伴う射精は、しばらく身動きができなくなるほどの快感をもたらした。其扇の口中でびくびくと震えて精を放ち続ける間、我妻はずっと呼吸を止めていた。
「――……は……はぁ……っ、ぁ……はぁ……」
「……ん……」
ようやく息をつけるようになった我妻が見おろすと、其扇は、口の中の精液をどうすべきか逡巡しているようだった。慌ててヘッドボードからティッシュを引き抜き、其扇の口元へ持っていく。
「晟尋さん、吐き出してください」
「……」
「ここに、早く」
ふたたび、其扇は首を振る。
其扇はゆっくり口を開き、夥しく白濁にまみれた舌を見せつけてきた。
「……晟尋さ……、う、あ」
ぬらつく舌で、いったばかりの性器をまた舐める。其扇の舌も唇も、我妻のものも陰毛も、すべてが白く汚れて、濡れた。
「ふふ――ぐちゃぐちゃだな、タイガ……?」
「……ッ、……」
「また……すぐできるだろ……? ほら……――」
唾液と精液が混じり合った液体を用いて、我妻の興奮をもう一度誘ってくる。
もう駄目だ、これ以上抑えられない。また高まっていく。汚れも厭わず愛撫してくれる其扇の情がうれしくて、幸せで。
「な……? 勃ってきた……こんなに、すごいな……」
口元を汚したまま微笑む其扇の色香ほうが、よほどすごいと我妻は思う。
その凄艶さに誘われる、高められる、狂わされていく。愛している。
「今度は、俺の中に入っておいで。ゴム、いらないから……」
どう答えたのか分らない。自分の声さえ聞こえないほど、我妻は昂っている。
けれど、たぶん我妻は「愛している」と告げたのだと思う。
なぜなら其扇が、我妻を受け入れながら「俺もだよ」と答えたから。
「誕生日おめでとう、タイガ」
許されているのではなく、愛されている。
「生まれてきてくれてありがとう」
祝福の言葉を受け、我妻は、其扇の中へ身を沈めていった。