2020年7月25日
18時15分
東京駅
東海道新幹線ホーム
16時01分に京都駅から発車したのぞみ32号は、定刻通り東京駅に到着した。夕方だというのに息苦しいほど蒸したホームに降り立った東郷遊馬は、エスカレーターを下り、メトロに乗り換えるため地下へ行きかけて立ち止まった。
こんなにも暑くて、なんとなく気分も塞いでいる。ラッシュアワーで混みあった電車に乗りたくない。荷物は小さなバックパックひとつだが、それすら重く感じられ、最寄駅から自宅マンションまで数分の距離を思うとうんざりする。
それに、それにだ。
いまは、とにかく一刻も早く帰りたい。なぜなら、好きな人と逢う約束があるから。顔を見て、触れて、抱きしめて、匂いを胸いっぱい吸い込んで、キスをしたい。そうすれば、胸のもやもやなど吹き飛んでしまうに決まっている。
「いいや、タクシーに乗っちまおう」
独りごちた遊馬は、八重洲中央口地上へ足早に向かい、客待ちのタクシーに乗り込んだ。
「広尾へやってください。広尾橋交差点から有栖川宮記念公園のほうへ入っていく感じで」
運転手に行く先を告げて、スマホを取り出す。其扇晟尋のアイコンをタップして「あと20分くらいで帰れる」「マンションで待ってる」と打ち込む。既読がついてすぐ、脱力系のタッチの猫が「りょうかい」と鳴いているスタンプが送られてきた。
「……ふふ」
其扇はいま、どこにいるだろう。
新幹線に乗る前に東京への到着時間をメッセージで知らせておいたが、きっといまのメッセージを見て、出掛ける支度をしているに違いない。とすれば、其扇がやってくるのは、遊馬が帰宅した30分後か1時間後か。
もうすぐ、もうすぐだ。
たった4日離れていただけなのに、とてもとても淋しかった。でも、もうすぐ逢える。だんだん其扇へ近付いている。
首都高速を走るタクシーの中、遊馬は、足踏みしたいような気持を持て余す。薔薇色に暮れゆく夏の東京、その美しい風景を眺めもせずに。