

















【???】
「見つけた」
【真秀】
「え? ……うっ!」
一瞬の浮遊感。
次いで何がなんだか分からないうちに
背中に激痛が走って息が上手くできなくなった。
【真秀】
「かはっ」
それから妙な熱さと、締め付けられる首の圧迫感。
動けない。
誰かに、何かに自由をいきなり奪われてしまったという焦り。
ぎちり、と皮が擦れ、骨が軋む音。
反射的にその手をどけようと抵抗すれど、びくとも動きはしない。
【鬼】
「はあ……。こんなに簡単に押し倒されるとはなぁ。拍子抜けだ」
【真秀】
(声……人間?)
やはりあの視線は人間によるもの――そしてどういうわけか
真秀に強い恨みかなにか、負の感情を抱いている者。
まだ揺れて定まらない視界が次第に中央に集まりだし、
焦点が合う。
黒く揺れる髪の毛が、まず目に入った。そして、どんな面か
見てやろうとすれば……――。
【真秀】
(面布……――)
顔を覆うようにはためく布だけが、見えた。
【真秀】
(鬼っ――!)
ぞっと、今度は背中に寒気が奔る。
もっとも可能性から遠ざけていた正解を引いてしまった。
鬼の領域に、丸腰で囚われてしまった。
心のどこかで、秀のような鬼なんていないんだ。
いたとしても、対話が可能で襲ってくるはずがないと
安心してしまっていた。
家に走るのが正解だったか……と悔やんでももう遅い。
業物のない自分が鬼に組み敷かれてしまっては、
打てる手など、数えるほどだ。
みちり、と、
また嫌な音が耳に入る。
【真秀】
「かはっ……!」
息を吸おうと大きく口を開いても、雨粒ばかりが入ってきて
結局は呼吸ができない。
【鬼】
「お前だろ、俺の連れを勝手に使ってんの」
【真秀】
(勝手に、使って……?)
突如、上から降ってきた言葉に違和感を覚える。
この鬼も、秀のように自我があることはわかる。
けれど俺の「連れ」――? 何の話だ?
しかも「使う」だなんて。
けれど、薄くしか酸素が供給されず、強打によって揺れた脳は
いまだそれらの一つ一つの言葉の意味を結び付ける程
働いてくれない。
ぼんやりと彷徨う真秀を見てか
鬼はイラついたように首をぐっと締め付ける。
【鬼】
「あいつのことだって、わからないはずないだろ」
【真秀】
「う……あ……」
問いかけているのに喋らせる気はないのだろう。
そのくせ、気道を全て潰すようなことはしない。
殺すことが一番の目的というわけではないのだろうか?
どうしてこいつに狙われるのか、あいつ、とは……?
俺のって、なんのことだ。
何も分からない。
薄っすら、僅かに浮かぶ思いはあれど
それは同時に消えるものでもあった。
とにかく鬼の言うことを考えるよりも、まずはこの状況から
抜け出す必要が自分にはある。
ぐっと、鬼の腕を握る手に力を込める。
鬼はその反応に楽しそうに口元を緩めるだけだ。
全く歯がたたない。
【鬼】
「おっと、これじゃ死んじまうな。
人間は弱い。いけねえいけねえ」
【真秀】
「っ、はっ!」
僅かに開いた気道に空気が一斉に流れ込む。
けれどこれがまた閉じられるのも、目の前の
鬼次第だった。
強者からの圧倒的で理不尽な暴力は、こんなにも屈辱感を
与えるものか。腸が煮えくり返るような怒りを覚えても、
ただ蹂躙されるしかなかった。
【鬼】
「な、早く出せ。死にたくないだろ?」
【真秀】
「っ――な、にを……っ!」
一度手の力を緩めたかと思えば、また締める。
本気で真秀に何かを求めているのか、
それともただ弄んでいるだけなのかわからなくなる。
【鬼】
「鬼。お前、連れてんだろ」
【真秀】
「――っ!」
【透佳】
「あれ? 伊武さんだ」
歓談していると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
伊武につられて声の主を見れば、件の美丈夫が立っている。
【伊武】
「おや、透佳さん。お邪魔してます」
【透佳】
「俺も参加させてよ」
【伊武】
「透佳さんのお願いだったら断れないな」
伊武は仕方がないなあとばかりにくすりと笑って、透佳を受け入れる。
【真秀】
(二人とも知り合いだったんだ……)
透佳は遠慮なく、と言うように腰を下ろす。
硯はまだしも、あの鬼にしか興味のなさそうな穂純ですら
透佳と相席することを受け入れていた。
伊武と透佳は接点の無さそうな二人なので、親しげに話している姿に驚く。
静華楼は伊武の行きつけということだから、
顔を合わせることも度々あったということだろうか。
真秀の予想を裏付けるように、
伊武が何度も静華楼に通ううちに仲良くなったのだと説明する。
【透佳】
「真秀君も伊武さんのとこの子だったんだね」
【伊武】
「おや、二人は知り合い?」
【透佳】
「この間蘇芳庵の旦那のところで知り合ってね。
全然来てくれないなと思ってたんだけど、
伊武さんと来るとは思わなかったなぁ」
【真秀】
「……すみません、時間が取れず」
【透佳】
「いや、別に責めてるわけじゃないよ。
こうして会えて良かった」
【真秀】
「僕も来られて良かったです」
その場しのぎの口約束を覚えていたことに驚きつつ、笑顔で返す。
真秀の笑顔に、透佳は微笑みを深くした。
【晴】
「……なんだこれは」
【真秀】
「わっ」
座っていたはずの晴が、肩越しにそう尋ねた。
興味深そうに包みをじろじろと見るので、
包みを開けて中の黒に近い小豆色を見せる。
【秀】
「あ、主に近づきすぎです!」
【晴】
「私への礼をじっくり見て何が悪い」
真秀は晴の言葉にはは、と笑いながら
【真秀】
「まあまあ、秀にはこれを上げるから」
と他に買っておいた豆菓子を渡してやる。
大豆に砂糖がまぶされたものだ。
【秀】
「わーい! ありがとうございます!」
鬼は食べる必要が無い、と言うものの
秀は食べることが好きだ。
くい、と裾を引っ張られれば晴がむくれたように
こちらを見ている。
機嫌を直した秀を横目に、晴に菓子を説明してやることにした。
さらさらとした髪の毛がくすぐったいが、なんとなく
息を詰めて耐えることにした。
【真秀】
「……ん、これは羊羹ですよ」
【晴】
「ふむ、羊羹と言うのか」
初めて見聞きしたといった風の晴に少し驚いて、
まあそんなこともあるか、と納得する。
何せ彼はとうせん坊と暮らしているのだし。
【真秀】
「今までどんな菓子を?」
【晴】
「んー、甘納豆ばかりだった」
だから先ほど確認したのか。もしかして甘納豆だったら
今回の礼は金でいい、と言われてしまったのかもしれない。
【晴】
「で、つまり羊羹とはなんだ?」
なんだ、と問われてどう説明したらいいだろう。
甘納豆と比較するのがいいか。知っているものと
絡めて説明したほうがいいだろう。
【真秀】
「素材はさっきも言った豆で、そこは甘納豆と一緒です。
その豆に砂糖を入れて煮越して、寒天で固めたもので……」
日持ちはするし、お茶には合う。
甘さが活力になるし腹持ちも悪くない。
比較的安価で手に入るのも良い。
このままでは紹介したいことが溢れてしまう。
熱が入りすぎてしまう前にここらへんで紹介は終えておく。
【真秀】
「しかもこれ、細かく刻んだ栗まで入ってるんですよ……っ!」
【晴】
「おお……!」
だから礼として出すにはちょうど良い一品と思ったが、
羊羹を初めて食べる彼は、これが普通だとは思わないで欲しい。
【真秀】
「ちゃんと味わって食べてください。
特別な羊羹ですから」
真秀は自分に聞かせるように言ってから、
どうやって渡そうかと思案した。
丸ごと一本渡すわけにもいかないし、
一切れだけあげるというのは器が小さい。
どうせなら自分も食べてしまおうと、少し多めに切り分ける。
そわそわとしている気配が伝わり、
真秀は晴をちらりと見た。
すると視線に気づいた晴が、羊羹に注いでいた視線を
真秀へと向けてくる。
【晴】
「む、なんだ?」
【真秀】
「……いえ。
甘いものが好きなんですか?」
【晴】
「甘いもの……菓子は食べると嬉しい気分になるからな。
そうかもしれん」
【真秀】
「なるほど。でも甘納豆は飽きている?」
【晴】
「飽きて……は、ない、が羊羹は楽しみだ」
【真秀】
「ふふ」
そう、飽きはしないが新しいものも食べてみたい。
真秀が蘇芳庵に定期的に通う理由は正にそれだ。
彼が今後菓子を色々食べる機会があれば、味について
もっと語ることもあるのかもしれない。
【真秀】
「どうぞ」
何より楽しみにされていて悪い気はしない。
切り分けたものを机まで持って行こうかと思ったが、
晴の体勢からして動くつもりはないようだ。
座らずに食べるのは行儀が悪いけれど、叱ってくるような
人もいない。
そもそもここは己の住まいであって、料亭ではないのだから
――と自分に言い訳をする。
【真秀】
「はい、どうぞ」
真秀が晴へ羊羹を差し出すと、
晴は少しの間それを眺めていたが、
ぱかりと口を開いた。
【晴】
「ん」
【真秀】
「は?」
食べさせろと言うように顎をクイと前に出す。
子供のような振る舞いに、真秀は呆れた声を漏らしてしまった。
【穂純】
「おい。腰、少し浮かせられるか?」
【真秀】
「う……ん……」
真秀は何も考えられないまま穂純の導きのまま腰を浮かせ、
すっかり勃ち上がった穂純の屹立に跨った。
【穂純】
「真秀、大きい声は出すなよ。
――廊下に聞こえちまう」
穂純がからかうように言った。
さっきは声を聞かせろと言ったり、
今度は声を出すなと言ったりわがまま放題の穂純に
お前が遠慮しろと言いたかったが声にはならない。
むしろ聞かれるかもしれないという背徳感に、
ますます身体を熱くしていた。
それを裏付けるように
立ち上がった真秀の雄がぴくんと揺れる。
【穂純】
「ほら、腰落とせるか?」
後孔に熱く硬さを持ったものが触れた。
真秀は穂純に言われるまま、それを受け入れるように
ゆっくりと腰を落とす。
【真秀】
「あっ――……っ! かはっ、ぁ……、――……っ、……」
声を出さないよう口を塞ぐが、
それでも抑えられないほど、
質量のあるものが後孔を押し広げる。
【穂純】
「くっ……きっ、ついな……」
流れる生理的な涙でぼやけた視界の端で、
穂純もまた少し苦しそうにしているのだと分かった。
【穂純】
「息、止めるな……っ、
ゆっくり、吐いてみろ……――」
言われるがまま深呼吸するが、まるで自分のものではないように
身体が言う事を聞かない。
まだ先端が入り切っていない程だと言うのに
内蔵を押し出されるような異物感に、
真秀は眉間の皺を深くする。
【真秀】
「ん、うぅ……ふぅ……」
【穂純】
「っ、はぁ……、……ふっ」
指とは違う質量を受け入れようと、内襞が動く。
【穂純】
「大丈夫か?」
【真秀】
「だい、じょうぶ……」
穂純が進みを止めて問う。
はぁはぁと肩で息をしながら答えると、
穂純が安心したように表情を柔らかくした。
穂純の優しさを感じ、もう一度力を抜くよう努める。
受け入れたい、と自然に思っていた。
【真秀】
「ふっ、う……――ふぅ――……、っ……」
ゆっくりと穂純のものを埋める。
穂純も少しずつ腰の位置をずらし角度を変えながら、
先走りを塗り付けるように動いた。
【真秀】
「ん、っ……んんっ! っ……――、……」
【穂純】
「んっ……――!」
じわじわと後孔を押し広げ、先端が抜けた瞬間
一気に真秀の中へ入る。
腹の中を熱く猛る穂純のものが満たす。
覚悟していたが先程までとは比べものにならない
質量に息が詰まる。
晴が刺激にもどかしげに内腿を動かす。
【晴】
「くっ、好き勝手、しおって……っ」
【真秀】
「文句を言うならほら……、自分で手、動かして……――」
真秀の言葉に応えるように辿々しく晴は手を動かし始める。
【真秀】
「ぁ……――」
つ、と迷うように動いた晴の指が
真秀の先端に触れ、甘い声が漏れた。
それも一瞬で、得心したように晴が呟く。
【晴】
「……、ふん……、なるほ、ど……」
晴は手を止めて真秀の陽物に視線を落としている。
真秀のものも今ははっきりと先走りが滲んでいた。
【真秀】
「……――、なに……晴……?」
先ほどまで困惑した声色が鳴りを潜める。
【晴】
「……、悪く、ないらしい……」
【真秀】
「っ!? ぁ、ちょ……、んん……――っ!」
晴が、自身の屹立ごと真秀のものを軽く握り込んだ。
二人の陽物が擦れる感触に驚いて、真秀は声を上げる。
確かに晴が自慰の方法を知ればいいと思っていたが
やり返されるとは思っていなかった。
【晴】
「それにこんなことで、借りを作るつもりはない……――。お返しだ」
【真秀】
「そ、そんなつもり、……ぁ、ないって……っ……!」
晴が裏筋を辿るように指を動かす。
陽茎の先に繋がるへこみに指を這わせ撫でると、
そのまま先端の口へ指をあてた。
誰かのものと一緒に擦り上げられるなど、始めてだ。
だというのに、刺激に期待するように真秀の腰が
ぞくりと震える。
自分の手以外には、こうも反応してしまうのか。
【真秀】
「っ、ふぅ……ぁ……」
【晴】
「はは、してやられるばかりでは……っ、いけないな。
お前が顔を歪ませているのは、好い。
私っ、ばかり……辱められていたからな……――」
晴の意地の悪そうな笑顔が視界に入る。
晴は器用にも、真秀を責め立てながら
自身の屹立を真秀のそれと擦り合わせていた。