白洲武彌cg1

【白洲 武彌】
「ところがこの坊や、イケメンだなんだともてはやされて、京都の
激戦区でトップ当選した注目株なんだってよ。
近ごろマスコミへの露出も多くて、目障りだったらありゃしねえ」

【白洲 武彌】
「元官僚でも二世でもない可愛いだけのサラリーマン連れてきて、
軽い神輿に仕立て上げただけじゃねえか。晴山センセイお気に入り
だかなんだか知らんが、与党にゃよっぽど人材がないのかねえ」

【白洲秘書】
「ただのサラリーマンではなかったようですよ。
父君が現職の京都府議会議員だそうで」

【白洲 武彌】
「地方議員なんざ、国政の場では一般人も同様だ」

【白洲秘書】
「そう言う武彌様も特別地方公務員なんですがねえ」

【白洲 武彌】
「おまけに、こいつの秘書の蓼丸も、野党のお偉いさんの息子の
くせに寝返りやがって。
お坊ちゃんらの政治ごっこのつもりかよ、くそ生意気な」

【白洲秘書】
「武彌様、下品なもの言いはほどほどに。
おじい様に叱られますよ。
それに、お坊ちゃんとおっしゃるなら武彌様も同じでしょうに」

【白洲 武彌】
「俺は青二才って意味で言ったんだ」

【白洲秘書】
「白洲家先代からお仕えする私からすれば、武彌様も其扇氏と
変わらない年代に見えますよ」

【白洲 武彌】
「よせよ。
これだから古株は嫌だってんだ」

【蓼丸 一貴】
「――それにしてもすごいですね」

不意に蓼丸の口調が柔らかくなる。

【其扇 晟尋】
「なにがだよ」

【蓼丸 一貴】
「参議院選挙勝利の立役者として、先生の名前が出るなんて」

【其扇 晟尋】
「やめろよ、いじるの」

【蓼丸 一貴】
「とんでもない、本心です」

なにが注目の若手議員だ。
なにがイケメンだ。
……と其扇は思う。

イケメンというのは「国会議員にしては」という但し書き付きだし、
若いというだけで容貌は五割増しで評価されている。

そもそも、国会議員で若いということは、実力も実権もないという
ことだ。

まったく、なんの褒め言葉でもありはしない。

【其扇 晟尋】
「確かに、あっちこっちで応援演説はしたけど、
それは選挙対策委員会から行けって言われたからだ。
逆らえない下っ端議員の悲哀だよ」

【蓼丸 一貴】
「つまり、先生に人気があるから応援の要請が来るわけでしょう。
選挙対策委員会だって分かっているんですよ」

【其扇 晟尋】
「そりゃあ、初当選の時は被選挙権を獲得してすぐの26歳だったから、
ちょっとは話題になったさ。
単にそれだけだって」

しかも、初当選のときは任期を全うせずに解散となった。
だから其扇のキャリアは、二期目といえどたった3年しかない。

【蓼丸 一貴】
「だとしても、知名度が上がるのは今後のために有利です。
先生の好印象を全国の有権者に訴求したかった私としては、
大成功です」

【其扇 晟尋】
「まあ、ね」

【蓼丸 一貴】
「選挙期間中、北は青森から南は熊本まで駆け回ったんです。
ニュースであのくらい取り上げてもらわないと不満ですよ、私は」

【其扇 晟尋】
「あー……その節は大変お世話になりました……」

――本気だ。
自分の命を捨ててもいいという者を擁したテロリスト集団。

――死を恐れない「無敵の人々」。

――それが、俺たちの敵だ。

【宮丘 一比虎】
「戦後のわが国で大規模な無差別テロは、これで二回目。
しかし前回はカルト宗教団体による事件で、
すでに25年も前になる」

【宮丘 一比虎】
「当時とは我々の組織も科学捜査のレベルもまるで異なるから、
参考にはならない。
爆弾テロという点で言えば、戦後初だ」

【宮丘 一比虎】
「要するに、なにもかも初めて尽くしの捜査となる。
が、諸君らは対テロ訓練を積んだエキスパートだ。
必ず被疑者を確保し、真相を究明し、テロの連鎖を防げ」

――この国が内側から崩れるのを防ぐために。

【宮丘 一比虎】
「捜査体制については、この後14時30分に通達される。
それに先駆け、我々は銃器の常時携帯および使用が許可された。
使用目的は、威嚇射撃に限らない」

――攻撃の銃弾を放ってもいい。

【宮丘 一比虎】
「総員、銃器確認」

【一同】
「はっ」

――銃を構えろ。手になじんだH&K P2000。

――この国を守るために。

――それは俺の仕事だ。

【其扇 晟尋】
「其扇です。 このたびは大変なことで……」

【東郷 遊馬】
「……」

其扇が挨拶を述べて頭を下げても、遊馬の反応はない。

ただ、隈に縁取られた虚ろな眼で見詰め返してきただけだ。
乱れた髪の隙間から。

【其扇 晟尋】
「どうぞお気を落とされませんよう。
私にお手伝いできることがあれば仰ってください」

【東郷 遊馬】
「おまえに……おまえ……」

虚ろだった眼が、突然、冷たい光を帯びた。

薄暗い廊下で、その眼の光は其扇を射抜くようだった。

射抜かれて動けなくなった其扇は、次の瞬間
襟首をつかまれていた。

【東郷 遊馬】
「おまえ……ッ!」

【其扇 晟尋】
「……!」

あまりにきつくつかまれて、息が止まった。

上背がある遊馬がそのまま目線を合わせようとしてくるので
其扇が吊り下げられるような形になる。

間近にある東郷の顔は怒りで紅潮し、荒い息遣いも
生々しく耳に響いた。

【蓼丸 一貴】
「先生っ!?
東郷さん、なになさるんですか!!」

【東郷グループ専務】
「遊馬さん!?」

蓼丸と専務が慌てた様子で止めにかかる。
が、遊馬の腕の力は少しも緩まない。

喰われそうだ、と其扇は思った。
遊馬は手負いの猛獣のようだった。

【東郷 遊馬】
「おまえ、なにが『テロは起こらない』だ!
適当なことばっかり言いやがって!」

血を吐くような叫びだ。
すさまじいまでの怒りが、其扇へ叩きつけられる。

【東郷 遊馬】
「昨日の今日でテロは起きた!
俺の目の前で車が吹っ飛んだんだぞ!」

【其扇 晟尋】
「く……っ」

ワイシャツの襟を捩じるようにされ、さらに息が苦しくなる。
堰き止められた血が、眉間のあたりで熱い。

其扇と蓼丸は、姓でなく名で呼び合っていた。
京言葉の甘ったるさと相俟って、妙にいかがわしく聞こえる。

【蓼丸 一貴】
「晟尋が死んだら、俺生きておられんかも」

【其扇 晟尋】
「ははっ、大袈裟やなぁ。
そういう殺し文句は、女の子に言うてやるもんやで」

【蓼丸 一貴】
「ほんまなんやて……」

【其扇 晟尋】
「分かった分かった」

――本当だろう。蓼丸さんは本心を言っている。

向き合って蓼丸を抱きとめている其扇には見えていないだろうが、
蓼丸の表情は冗談を言っているふうではない。

――それに、あの蓼丸さんの目。

あの目を其扇が見たら、笑ってはぐらかすことなどできないだろう。

重い。
感情をたっぷり含んで、見ている者が吸い込まれそうになる瞳だ。

――息が詰まる。

他者を拒むような空気にあてられて、我妻は、ひそめていた
息を少しだけ深くした。

【白洲 武彌】
「……利用、ですって?」

【其扇 晟尋】
(――まずい)

今までは言葉遊びのレベルだったが、これは逆鱗に触れた、と
初めて白洲と相対した其扇でもわかった。

双眸にたたえた光は燃えるように激しいのに
こんなに冷たい怒気があるのかと、其扇はゾッとする。

そんな白洲に射竦められてはもう畠山はなにも言えなくなっていた。
蛇に睨まれたカエル――容姿も相まってそんな言葉が浮かぶ。

会議は一瞬にして静まり返った。
誰もが物音ひとつ立てることを躊躇われる位、白洲がこの場を
支配している。

だがそんな中、其扇は確信したことがある。

白洲武彌が自衛官自殺事件をことさらに持ち出すのは、知事選の
得票のためかと思っていた。

【其扇 晟尋】
(でも、どうやらそうじゃない。
絶対になにかある……白洲知事の、一個人としての感情を揺さぶる
なにかが……)

知りたい。知らなければこの委員会も、白洲知事も
根本的に動かない。
けれどそんな気付きをよそに、議論はさらに悪いほうに転がっていく。

【晴山 太一郎】
「知事、落ち着いてください。
確かに畠山先生は」

【白洲 武彌】
「あなたも委員会にいらっしゃいましたね。
それで、なにをされました?
総理直下で組織した委員会の、その議長でしたよね。今回同様」

【其扇 晟尋】
(この流れを止めないと。
けど、どこでどんな言葉を差し込むべきか……)

【白洲 武彌】
「あなたたちは、調べると言ってははぐらかし、まだ分からないと
言ってはうやむやにする。だから、与党は都知事選で負けたんです。
あげく『事件を政治利用するな』とは、よく言えたもんだ」

【白洲 武彌】
「しかし、これで確信しましたよ。
人ひとり死んでもなにも解決できない政府に、多数の死傷者が出た
テロ事件なぞ、とうてい対応できるはずもないってね」

【白洲 武彌】
「雄政党の皆さんは、こんな与党の民自党と連立しなきゃならんの
だから大変ですなあ。
泡沫政党の苦労ってとこですか」

【畠山 潤】
「テロと自殺では、そもそも重大さが違うでしょう!」

【其扇 晟尋】
(もう黙れ!)

国会議員が死の重みは人によって違う、と
言ったようなものじゃないか。すさまじい悪手だった。

完全にこれでは――其扇が心配した通り、白洲は
今度こそにいっと笑った。

【白洲 武彌】
「フェラしたことは?」

【其扇 晟尋】
「ないですね」

それを聞いた白洲の声音が一段と楽しそうに変わった。

【白洲 武彌】
「マジか。……へーえ。
してるかされてるかって思ってたけどな」

【其扇 晟尋】
「そんなわけないでしょう。
なんでそんな上機嫌になるんですか」

【白洲 武彌】
「お前の口の中に突っ込むのが俺が最初って、
最高じゃないか。初めての男ってことだろう。
だったら……ほら、早くしてくれよ」

【其扇 晟尋】
「最初の駆け引きを楽しむ余裕はないんですか」

【白洲 武彌】
「入れてからしっかり楽しむから気にするな」

【白洲 武彌】
「さあ、俺を気持ちよくさせてみろ……」

そう言われては逃げ場がない。

そっと口を開けた。
舐めようとして舌を伸ばす。

けれど舌がうまく動かない。
なにせ初めてなのだ、戸惑ってしまうのは仕方ない。

そんな其扇に白洲は腰を揺らせてみせる。

【白洲 武彌】
「そうやって眺めてたって、どうせすることは同じだぞ?
それとも、俺のもんに見とれてるのか?」

【其扇 晟尋】
「……違いますよ……」

そうは言ったものの、先ほどから匂い立つ白洲の体臭が
其扇を戸惑わせる。

こうやって自分以外の男の匂いなど嗅ぐのは初めてだし、
それに嫌悪感のない事にも動揺しているのだ。

蓼丸だってずっと友人から秘書という関係に
あったが、ここまで近しい距離で肉体を曝け出した
ことはあったろうか?

色々思考が回るが、結局のところ
ずっとこうしていてもさらに気まずくなるだけ。
白洲の言う通りだ。

乾いた唇を一度舐め潤すと、すう、と息を吸って
舌を伸ばした。

【其扇 晟尋】
「……、……」

一番最初は舌先で触れるだけ。
恐る恐る竿の中ほどを、わずかに舐め上げる。

柔らかいような、それでいて跳ねかえってるような弾力。
2,3回舐めると少し硬くなったのがわかった。

【白洲 武彌】
「……」

既に熱く、脈打つ太い血管すら舌で分かるくらいなのに
白洲は何も言わない。舐められたことに何も思わないのだろうか。

いや、そんなはずない。

悔しくなって二度三度、近い部分を舐めてみた。
けれど彼に変化はない。

【其扇 晟尋】
「……良くないですか」

問いかけに白洲が笑う。

【白洲 武彌】
「ああ、まるでよくない。
この程度じゃ、童貞だって感じないだろうよ」

【其扇 晟尋】
「……」

意を決して舐めたというのに。

【其扇 晟尋】
(なら興奮させてやる……)

こんなシーンですら負けん気が強いのはどうかと
自分でも思う。だが相手はあの白洲なのだ。
このままでは一生馬鹿にされる気がする。

黙り込んだ其扇を背中から抱きしめ、首筋に顔をうずめて、我妻は
切々と乞う。

【我妻 タイガ】
「あなたのもとで働くのが好きです。
あなたから命令されるのが好きです。
あなたが好きです」

【其扇 晟尋】
「タイガ……」

【我妻 タイガ】
「あなたしか見えない。
あなたのためなら、なんでもする。
だから……」

我妻は身も心もすべて、自分の存在そのものを差し出し、代わりに
其扇を抱かせてくれと懇願している。

一方で我妻は、其扇の気持ちを確かめようとはしない。
俺を好きですかとは訊かない。
俺を好きになってくださいとは求めない。

【其扇 晟尋】
「……身体だけでいいのか?」

【我妻 タイガ】
「はい。
だって俺は、ただ……」

ただのSPだからと言いたいのか。
それとも、ただの犬だからと。

其扇の存在ごと、心ごと得るのは、分不相応だとでも言うのか。
我妻にとって其扇の心は、手の届かない宝のようなものだと。

【我妻 タイガ】
「だから、どうか……」

こんなに思い詰めた声で縋りついてくるほど。

――健気な奴。

我妻が其扇に特別な感情を抱いてることなど、とうに知っていた。
其扇が知っていることを、我妻も分かっていた。

夜ごと足への口付けを我妻が求め、其扇が許していたのは、互いの
了解の証だった――いま思えば。

――俺は、いつかタイガがセックスを求めてくるって……心のどこ
かで予想していたんだ。

予想して、煽っていた。

――俺、欲しがられるのが好きなんだな。

それがかわいいタイガなら、なおさら拒むわけもない。

【其扇 晟尋】
「いいぞ、タイガ」

欲しいのなら、与えてやる。

【其扇 晟尋】
「おまえの好きにしていい。
ただし、無茶はするなよ」

【我妻 タイガ】
「大臣……」

【其扇 晟尋】
「名前で呼べ。
いまだけ、な」

【我妻 タイガ】
「晟尋さん……ッ!」

言い終えてすぐ、唇を塞がれた。

【我妻 タイガ】
「……っ、は……」

【其扇 晟尋】
「ん、ぅ……っ、ぁ……」

触れ合い、確かめ合う間もない。
いきなり差し込まれる舌に応じる其扇の息は、早くも乱れた。

【其扇 晟尋】
「ぅあ、……っは、ぁ……」

【我妻 タイガ】
「――ふ……ッ、ん、ぁ……晟尋、さ……」

【其扇 晟尋】
「んん、ぅ……っ、う、ぁ」

其扇の舌が無意識のうちに奥へ逃げようとするのを許さず、我妻が
甘咬みで引き留める。

【其扇 晟尋】
「ん……っ、ぐ……」

【我妻 タイガ】
「……ん――……」

そのまま咬まれ、吸われ、絡み、息を注ぎ込まれ、息を奪われて、
キスというより咀嚼じみた荒々しさに其扇は翻弄される。

十分な酸素を取り込めない其扇の身体は、徐々に力を失っていく。
倒れ込んでしまいそうで、其扇は我妻の首へ回した手に力を込めた。

そうすることによってキスはますます深くなり、いつしか其扇は、
我妻によって口の中を犯されているような感覚に包まれた。

【其扇 晟尋】
「あぁ……――」

我妻の舌先が、其扇の歯列をなぞり、上顎をくすぐる。

刺激されているのは口なのに、どうしてか腰のあたりからぞくぞく
と震えが走った。
震えは尾を引き、波動を増幅させながら全身へ伝わる。

【其扇 晟尋】
「――……っ、……ぅ」

【我妻 タイガ】
「――……ん、ん……」

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