東京陰陽師~天現寺橋怜の場合~発売を記念して、
ライター・穂波さんがツイッター上に掲載したSSSをまとめております。
【天現寺橋の儀式的行為/0630】
「慎みて五陽霊神に願い奉る。――急急如律令!!」
天現寺橋はせーマントドーマンに唇を落とすと、術を解放する。
眼前の妖の動きを咎め、そのまま封印をした。
「……よし完了したぞ」
隣にいる上大崎とバサラに向かって、巻物を掲げて見せた。
「わぁ、お疲れ様ですセンセイ!」
「上大崎、この依頼料はたっぷり請求するからな」
「……」
だが、どうしてか。
上大崎だけは、どこか前屈みで、俯いたまま黙っている。
「おい、上大崎聞いてるのか?」
一体なんだと、天現寺橋は問い掛けた。
すると、震える声で上大崎が呟いた。
「……何できみ、術を解放する時に手首にキス何かするんだよ……」
「いや、別に気合を入れてるだけなんだが……」
「えっ、それだけの理由!?」
「……悪いのか?」
「……いや、そうじゃないけど……何だか、その……」
上大崎の言葉は徐々にしどろもどろになっていく。
最後の方はほぼ聞き取れない。
「何だい? はっきり言いなよ」
「いや、何だかエッチだなって……」
「ッ……! 何を言って……!」
天現寺橋は思わず上大崎の脛を強く蹴った。
「きみは莫迦か!?」
「ま、まさか! その前屈みの姿勢って、キスするセンセイに興奮してなんじゃ……」
「そうなのか?」
「ち、違うよっ!」
「えー本当ですかぁ……」
じとっと見つめるバサラに、上大崎は更に慌てる。喧々囂々とした言い合いが始まった。
「……はぁ」
そんな二人を横目に、天現寺橋は息をつく。
(何だ、違うのか……)
それは、どこかがっかりしている己の心に、まるで蓋をするような溜息だった。
【了】
【天現寺橋の性格が真反対に!?/0701】
天現寺橋事務所で偶然鉢合わせた二人の陰陽師と、一人の羽織役が互いに視線を交わす。
此所にいるのは一体誰なのか、と。
「どうしたの、皆。座ってよ」
そう花のような笑みを綻ばせながら、人数分の湯呑みを置くのは天現寺橋だ。
自ら茶を出す姿など、初めて見た。
「これって……どういうことなの?」
「昨日の依頼で『呪』にあてられたらしく、性格が真反対になっちゃったんです」
「えー!!」
上大崎は慌てたように声を張り上げた。
しかし、焦っているのは上大崎だけで……、
「くく、いいじゃねぇか。……物珍しいが、結構可愛いぜ」
「この程度の残滓……暫し為れば消えるだろうさ。ふふ、その前に一夜共に過ごしてみたいねぇ」
「確かに……ボクもおぼこっぽいセンセイに悪戯したいです」
どうやら他の三人は、いつもとは違う天現寺橋を楽しむことを決めたようだ。
「何言ってんだよっ! 今すぐ僕が元に戻してっ……」
上大崎は天現寺橋に詰め寄ると、手首を強く掴んだ。
それが痛かったのか、小さい声が上がる。
「上大崎……」
そして潤んだ眸を向けた。
「う……、か、……可愛い……って、あっ」
その瞬間、上大崎は体勢を崩し、そのまま天現寺橋ごと床に倒れ込んだ。
「痛たたた」
「っ、何だ一体……おい、何で僕の上に乗ってるんだ、下りろよ」
そして、起き上がった時には天現寺橋は元に戻っていた。


「……」
全員の溜息が響く。
「最悪、だな……」
「莫迦が」
「このヘタレー」
冷たい視線と容赦ない言葉が上大崎に突き刺さった。
「うう……」
そして何とはなし、上大崎もガッカリしている。
「な、何だよ一体っ……僕にもちゃんと説明しろッ、おい!」
ひとり、意味が分からない天現寺橋だけが苛々して地団駄を踏んだ。
【了】
【半夏生/0702】
―凛、と。
静謐な空気を纏い、四谷が天現寺橋の寝所に現れる。
まさに天現寺橋が床に就いた折のことだった。
「……これはこれは。どうしたんだい?」
徒に嗤い、天現寺橋はベッドに腰を下ろす四谷を見つめる。
来たばかりだというのに、四谷の眸には情欲の色が浮かんでいた。
「なに、今日は半夏生だろう。物忌でもしようと、ね」
「……それで何で僕の寝室になるんだい」
「ふふ、私にとって此処が……そしてお前が神聖な存在だからだよ」
「ッ、……ん……」
途端、頤を掬われ、四谷の長い舌が唇を割って侵入してくる。熱く濁った息が漏れた。
「ん……、ぁ……」
舌を甘噛みされ、上顎を嬲られる。
なめらかに動く蛇の舌は、天現寺橋の内部を好きに掻き回していく。
人とは異なる四谷の冷たい舌と唾液が、天現寺橋の熱と溶け合って生温い。
「ふ、ぁ……」
脳裏を焦がすような行為に痺れを感じた時、ふいに唇が離された。
四谷はふふ、と愉悦げに微笑うと、寝衣の上から腿を撫でた。
「さあ、私の不浄を祓ってくれるだろう……天現寺橋」
「ふ、仰せのままに四谷様。その代わり、僕も楽しませてくれよ……」
甘い囁きに天現寺橋は口角を上げると、四谷の首に腕を絡める。
そして、共にその身をベッドに沈めた。
【了】
【天現寺橋の黒猫化/0703】
「は……くしゅん!」
上大崎は、眼前の猫を見てくしゃみをした。
「大丈夫ですか、上大崎様。というか、本物の猫じゃなくてもアレルギーが出るんですね」
バサラは鼻水をすする相手に嘆息すると、視点を下にする。
そこには、黒い猫耳と尻尾が生えた天現寺橋が座っていた。
「これ、どうし……くしゅん!」
「見た通り猫になっちゃったんですよ。
骨董屋の店主さんが、センセイにふざけて付けた『猫又』が宿るネックレスのせいで……」
バサラの言うとおり、確かに天現寺橋の首には、
緑の石が光るネックレスが掛けられていた。
「あれ、三日月の夜しか外れないんです」
「え、そんな……くしゅ!」
「上大崎様……さっさと帰ったらどうですか?」
「で、でも……」
みゃあ、と小首を傾げる愛くるしい姿を目の前に、上大崎は帰ることを躊躇われる。
普段ならば猫など御免だが、猫耳の天現寺橋を放っておくなど勿体なくて出来ない。
上大崎は、その頭を撫でようと手を伸ばした。
けれど、威嚇されてしまう。まるで拒否するかのように、尾で手を叩かれた。
「そんなぁ、天現寺橋ぃ……」
払われた手を涙目で摩る。そんな時、
「ふふ、猫になっても愉快な戯れをする」
どこからともなく現れ、四谷は天現寺橋を掬うように抱き上げた。
眉間を弄るよう撫でられ、天現寺橋は気持ち良さそうに目を細めた。
「えええっ僕と態度が違くないっ!?」
「ふふ、私の腕にいる方が良いようだな」
そう勝ち誇ったように四谷が口角を上げる。
しかし、それも束の間。
ふいに天現寺橋は猫耳をぴくつかせると、四谷の腕を擦り抜けてしまう。
暫く押し問答が続いたが、そのうち諦めたように目黒は渋々膝を貸した。
「みゃあ~」
すると、天現寺橋はご機嫌な様子で、目黒の顔に頬をすり寄せ甘えて見せる。
可愛く喉を鳴らした。

「ッ!?」
その瞬間、ミルクを慌てて冷蔵庫から取り出したのはバサラで、上大崎は猫缶を買いに走る。
「……ふふ」
そして、四谷が静かに掌を掲げると、静かに右京と左京が現れ、
猫じゃらしを四谷に手渡す。各々が天現寺橋のご機嫌を取るアイテムを手にした。
三人共、それで気を引く算段なのだろう。
思惑通り、後々バサラと四谷にも天現寺橋は懐き、最後には膝に座るまでに至った。
しかし、上大崎だけはどんなに手を尽くしても、
天現寺橋に相手にされない不憫な状態が続いたのは言うまでもない。
【了】
【本編特典ドラマCD(目黒編)の前の出来事/0704】
目黒は人が賑わう歓楽街を通りに抜け自宅に向かう途中、
やけに派手な兄ちゃんに半ば強引に差し出される。
舌打ちをしながら受け取ると、目に痛い程ビビットな色味の紙には、
露骨なアダルトグッズが並んでいた。
「くだらね……」
くしゃりと握りつぶすと、ポケットに突っ込んだ。
「ん……あれは?」
ふと、見覚えのある薄萌葱色の着物が目につく。案の定、恋人の天現寺橋だった。
しかし、その横で男が馴れ馴れしげに肩を抱いている。
「なあ……いいだろ。付き合っている奴がいてもさ、一晩くらいバレないって……」
(ん、だよ……ナンパ、か……)
目を眇める。無論、気分がよいものではない。
それでもどこか、天現寺橋は断るだろうと高を括っていたのだが、
「ふむ、そうだな……」
(なっ……)
天現寺橋は思案気味に頤に手を添える。
まるで誘惑するように、相手を見つめている……ように目黒には見えた。
「あんたさぁ……人のツレに何してんの?」
気付いた時には、堪らず目黒は二人の間を割るようにして声を掛けていた。
当然、凶顔の相手を見て、ナンパ男はすぐに退散していく。
二人きりになると、何とはなしに気まずい空気が流れた。
「やあ」
「……よう」
「どうした、顔が怖いぞ」
「お前……恋人の自覚あんのか?」
「……。あるさ、でも……きみが相手にしてくれないからだろ」
天現寺橋は頬を膨らませて、視線を横に流した。
「なっ……」
確かに最近依頼が立て込んでいて中々会う事が出来なかったが。
(……そうくるか!?)
「ま、まあ、今回は断るつもりだったが……僕を寂しくさせるきみが悪い。厭なら……分かってるだろ」
反省しているのか、していないのか。天現寺橋は挑発的な視線を目黒に向けた。
(全く、これだから……)
やれやれ、と息を吐く。
まったく、己は随分とわがままな相手を恋人にしてしまったようだ。
(まあ、それも可愛いが……)
キスをねだる唇に、目黒は逆らわず唇を重ねた。
* * *
隣で眠る天現寺橋を横目に煙草を燻らす。
ふと、握り潰した広告が落ちているのに気づく。
「……」
貞操観念が低い恋人を繋ぎとめるには、心だけでなくどうやら身体も必要なようだ。
今日、それがよく分かった。
広告を拾い上げ、中身を見やる。目についたのはひとつのアナルパール……。
(愉しませる……あとは、まあ今日みたいな時のお仕置きにはいいよな)
そう考え、目黒はくつくつ、と喉を鳴らした。
【了】
【野干の話/0705】
「やあ、四谷」
「ほう、珍しい……如何した?」
四谷の屋敷に訪れた天現寺橋は、すぐ巻物を差し出す。
引き取って欲しい妖がいるのだ。
「ふむ……では、寝室で詳しく話を聞こう」
「……」
つまりは、妖を引き取る代わりに、天現寺橋の身体で以て借りを返せということだろう。
天現寺橋は口端を引き上げると挑発的な眸を向けた。望むところ、だと。
「ん……?」
寝室に向かう途中、別室に右京と左京の姿を見つける。
二匹の間には耳が破れた野干――いなりがいた。
「ほら、私の名前を呼んで御覧」
「うきょ」
「じゃあ、私の隣に居るのは?」
「さきょ」
「うんうん、よく出来たね」
「では、我らの主は誰だ、いなり?」
「よちゅ、やしゃま」
「うーん、惜しいな。よ“つ”や、様だよ」
「よちゅやしゃま」
「……もう少し訓練が必要だな」
「よし、頑張ろうね」
(ふむ……良かったな)
何とも微笑ましい気持ちになる。
天現寺橋は自然に笑みが溢れた。
あとで、己も声を掛けてみよう。
すれば、己の名も呼んでくれるだろうか。
(楽しみだね……)
「ほう、好ましい顔をしているな」
四谷も目を細める。
愛しい存在の肩を抱き、そっと寝室へ促した。
【了】
【天現寺橋が「お酒を飲みたい」とリクエスト/0706】
◇上大崎の場合
「天現寺橋、ワイン買ってきたよ。赤、白、スパーリングもあるし……
あ、シャンパンも用意してるから、きみが好きなものを一緒に飲もう」
「ふむ、上大崎……それ一本いくらするんだ?」
「え、全部で百万くらいかな」
「バサラ!」
「はい、ちょっと売ってきます!」
「ええええっ!?」
◇目黒の場合
「よう、色々買って来たぜ。まずビールだろ。
あとはウイスキーに、ジン、ウオッカも。氷も割りもんもあるから、
ロックでもカクテルでも適当に作れよ」
「ああ、作ってくれ」
「え?」
「だって、きみが作ってくれるんだろ」
「……わーったよ、何が飲みてぇんだ」
「ふふ、甘いものがいいな」
◇四谷の場合
「お前が所望したものだ……さ、好きに飲むと良い」
「へぇ、結構大きな瓶……、ッ……」
「如何した?」
「……四谷、これマムシが丸々一匹入っているが……」
「ふふ、蝮酒だからね」
「四谷……これ、共食いって言わないのか? ……それに少し気持ちが悪い」
「飲めば性欲が上がるらしいが……」
「飲もう」
◇バサラの場合
「センセイー! お酒が用意できましたー」
「ふむ……ああ、今日は苺酒か」
「はい、前から漬けてたんです。あと二ヶ月後位には梅酒も飲み頃ですよ」
「いいね、僕の大好物だ」
「……あ、でもセンセイ。果実酒もいいですけど、
僕はセンセイのワカメ酒が飲みたいなぁって……」
「却下」
◇余談
各キャラの好きなお酒のイメージは、
上大崎は「ワイン、シャンパン」、目黒は「ビール、カクテル、ウイスキー」、
四谷様は「冷酒」、バサラは「カルアミルク」、天現寺橋は「果実酒、特に梅酒」です。