【東京陰陽師一周年記念SS~目黒と乳搾り~】
目を醒ましたらそこは――――牧場でした。
…………
「なんだこれ……?」
目黒は眼前の光景が幻でないかを疑うように、瞼を幾許か擦った。
確かにここは己の部屋だったはずなのだが。
意味が分からず、生理的な嫌悪から頬がひくりと震える。
寝ていたはずのベッドはなくなり、代わりに敷かれているのは適度に刈られ青々とした芝生。
風が吹けば土の匂いに混じって、独特の青臭さが鼻腔を擽る。
「……嘘だろ、おい」
しかし、その言葉に応える声は牛と羊の鳴き声のみで。
幾度瞼を擦ろうが、瞬きしようが、見えるのは変わらず牧場だ。
牧場に上半身裸で座っている己の現実は、どうやら覆りそうもない。
「……ぁ、そうだ、……怜っ」
隣で健やかな寝息を立てて眠っていた恋人の名を呼ぶ。
だが、あるはずの細い身体はそこにはなく、無意識に探す掌には芝生の柔らかな感触だけが伝わった。
「…………」
無意識に、目黒はズボンのポケットを探った。けれど煙草はない。
「将人ー」
眉間に皺を寄せ頭を掻いていると、背後から声を掛けられる。
首だけ向けると、数メートル先に天現寺橋が立っていた。
「なんだよ。後ろにいたのか……」
安堵に胸を撫で下ろして、目黒は声がした方向に体勢を変える。
天現寺橋は寝衣のまま牛を撫でながら、頼りない感じで手を振ってきた。
「…………」
どうしようかと迷う。この状況では手を振り返すのもなんだか間抜けで、目黒はただ見つめていた。
それにしても天現寺橋はわりと普通ではないか。
目黒のように戸惑うわけでもなく、牛の身体を撫で回している。
そして二分もすると、こちらへ足早に戻ってきた。
「おい、ゆっくり戻ってこいよ」
言うが早いか。目黒の目の前で、天現寺橋が躓く。
バランスを失った身体はあっけなく傾き、危ういところで目黒が抱き支えた。
「だから言ったろ」
「悪い」
顔を上げて、天現寺橋はまともに目黒と視線を合わせる。頬がどこか紅潮しているようだ。
「少し動揺してて……」
「あ。お前が?」
そうは見えなかったが。まあ、確かにどこからしくないといえば、そうかもしれない。
「なあ、将人……」
「うん?」
「僕……牛になったみたいだ」
「はあ?」
突然、こいつは何を言い出すのだと、目黒は眉間に皺を刻んだ。
***
「どういうことだよ」
隣に座らせて、目黒はまた無意識にズボンのポケットを探った。やはり煙草はない。
抑も禁煙中であり、煙草を嫌う恋人の前で吸うわけにもいかないのだが。
それでもこういう状況には、煙草がないと落ち着きを失う。
「だから僕は牛になったんだよ」
「はあ?」
天現寺橋は真面目な顔をしていた。
「何故か起きたら乳首から母乳が出るようになってたんだ」
「…………はい?」
身体も眸すら動かせず、辛うじて目黒はそう呟く。牛の鳴き声だけが大きく聞こえて――――、
「うるせぇよ!!」
目黒は罪もない牛たちに叫んだ。息をゆっくりと吐き出して、大きく吸う。
「……それ、本当か?」
嘘だよな、と思いながら目黒は訊いていた。
けれど黙って首を振ると、天現寺橋は衿をひろげて、胸を晒す。
いつもより熟れたように赤い乳首。それを自らの指先で乳首を掴んで、きゅっと搾るように軽く絞める。
すると、トロトロ流れ出てくるのは白い液体で……紛れもなく母乳だった。
「…………」
強く摘まめば摘まむほど、母乳は溢れ出して。
まるで吐精するかのように、母乳がびゅくっと跳ね飛ぶ光景は、妙に卑猥だった。
「本当だ……」
もう目黒はそれしか言えず、けれど、流れる母乳を食い入るように見続ける。
溜まった唾液を飲み込めば、喉がごくりと妙に大きく鳴った。
「……う」
ぱたぱたと、寝衣に水滴が落ちる。押し込めて閉じ込めていた不安や驚きが飽和状態になり、決壊したのだろう。
「どう、しよう……僕、このまま……本当に牛になって……」
いつものようにふざけた態度で状況を愉しむかと思っていたが、どうやら違っていたらしい。
「乳首も張って、痛い、し……」
天現寺橋が子どものように顔をくしゃくしゃにした。涙は頬を辿り頤を伝う。そのまま首筋へと、いくらでも流れていく。
「っ――――」
思わず、目黒は天現寺橋を己の胸に強く抱き寄せていた。
目黒は身体を折るようにして、唇をゆっくりと重ね、呼気を奪う。
最初は宥めるように軽く。二度目はしっかりと、深く。
親指で頬を擦りながら、目黒は味蕾を全て確かめるように、何度も小さな音を立てて唇を食んだ。
「……ふ、……ぁ……」
やがて細い腕を目黒の背に回し、天現寺橋も上擦った甘い声をだしてくる。
軽く下唇を噛むようにして、目黒は顔を離した。
そのまま首筋に舌を這わして、天現寺橋の熟れた乳首に口唇を寄せる。
ちゅく、と乳柔く吸い付いて、乳頭を幅広の舌で舐った。
「んっ……将人……っ、ぁ……」
「いいから黙って吸われてろよ……痛いんだろ、少し出したほうがいいって」
目黒は軽く噛み潰すように、天現寺橋の先端を口に含む。舌先で形をなぞり上げると、吸引を深くした。
痙攣するように震え、天現寺橋はぴゅ、と母乳を出した。
咥えられていない方の乳頭からも出たようで、目黒の頬にかかってしまった。
けれど、赤い尖りに垂れる母乳が艶めかしく、そんなこと気にならない。
「あっ、ん……っあ……」
左右交互に乳輪ごと引っ張り上げれば、滲む母乳が口腔に広がる。
ちゅくちゅくとそこに強めに乳頭に吸い付けば、小さなシャワーのようになって流れ出した。
搾るように胸全体を揉むと、いつもよりも柔い。左胸はどくどくと激しく鼓動を打っている。
母乳は生温く、想像したよりも甘くはない。
それでもミルクの香りと天現寺橋の体臭が混じった味と匂いは、目黒を充分に興奮させた。
もっと飲んでいたい。
「……ん、たまらねぇな……」
最初は痛みを軽減させるつもりで搾っていたのだが、今はどうだろうか。
下半身の雄はもう立派に膨れ上がり、じっとりと濡れた乳首は、いつもより数倍いやらしく見えている。
「あっ、ふ……ん、ぁ、……もっと、……」
それなのに己の恋人は容赦なく煽ることを言うのだから、厄介だ。
……いや、もしかしたら天現寺橋も己と同じ気分なのかもしれない。
胸を強く押し付けてくる眸は欲情を孕んでいる。
「……っ、……」
そう感じればもう止まらなかった。
掌に引っ付いてくるような肌を堪能しながら、目黒は天現寺橋の胸を強く揉みしだく。
そのリズムに合わせるよう一気に吸いあげれば、乳頭はいくらでも母乳を目黒に流し込む。
わざとそれを口に溜めて啜ってやると、天現寺橋は大きく喘いだ。
「あっ、ああ……っ」
どこか生温かっただけの乳白が甘みを増したように思えるから不思議だった。
そう、舌ではなく、脳が、天現寺橋の溢れる母乳を甘いと認識しはじめたのだ。
「あ……ぁ、……もっと、もっと吸って……将人ぉ……牛に、ならないように、飲んでぇ……」
「は、言われなくとも……全部なくなるまで、搾ってやるよ……」
真っ赤に充血した乳首を淫蕩な舌は弄び、母乳を吸いあげる息は荒く、揉み上げる厚い手は遠慮を知らない。
甘苦しい重い疼きに支配され、目黒も天現寺橋も夢中で乳搾りに没頭した。
***
そして身体と心を覆い尽くしていた激情が消え失せた時、二人は改めてこの状況を分析するため、冷静に頭を働かせるのだった。
【了】
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文:穂波
ツイッターのリツイート投票企画により、
「目黒×天現寺橋」・『牧場で乳しぼりをする話』となりました。
皆様の清き一票、ありがとうございました。
2015/06/27
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